Monologueひとりごと

「深海花」のあとがきのようなもの

一人の文章書きとして、作品は外に公開された時点で作者とは切り離され、作者の意図通りに読まれなかったとしても、読んだ人の感想がすべてだと思っています。ただし、それはあくまでも作品に関しての話であって、作者の狙いとは違う読み方をされた上で、作者の人格まで否定・攻撃されるのは本意ではありません。――自分がまともだとは微塵も思っていませんし、筆力があるとも思っていませんが、それとこれとは別の話です。

この言い訳のために「深海花」という作品について、作者のあとがきめいたものを書いておきます。あらかじめ断っておきますが大きくネタばれする上に作者の「書かなかった/書けなかった」類の内容がメインになりますので、興味がある方だけどうぞ――。

はじめに作品の方向性を「ミステリーではないミステリーチックな作品」にしようと考えたときに、それならば「完全犯罪」を書いてみたいと思いました。通常のミステリーでは物語の根幹に関してはきちんと説明をするのが決まりですが、あえて本筋を謎のままで通してみたらどうかと思い、実行者として「滝沢香奈」という人物を作り上げ、狂言回しとして彼女の弟(主人公)を据えました。

(作者の手抜きと言われればそれまでですが)この姉という人物に関してほとんど記述をしておらず、いかようにも読めるようにしてあります。どんな人となりだったのか、死の直前に何を望んだのか/何をしたのか、具体的な記述はほぼ皆無です。しかし様々な痕跡・罠を残しているため、何かしらの違和感・疑惑を感じてもらえれば――と思って作品を書きました。

姉が残した直接的な言葉は、最後の二つの文書しかありません。しかし、特に一つ目のものは他人の目に触れる恐れが高いという理由から、そのまま本心が書いてあるわけではありません。つまり「どうして自殺することになったのか」「相手に対してどのような気持ちを抱いていたのか」等について、書いてある内容が真実であるという保障はどこにもありません。むしろ違うからこそ、二つ目の文章で主人公にそれを察して欲しかった(=気づきを求めたメッセージだった)――というような方向で読んでもらうことを望んでいました。従って、作者としてほとんどの説明を放棄して読み手に任せたとはいえ、「実は相手を愛していた」などの言葉が姉の本心だとはわたし個人は思っていません。

あと指摘が多かった高田という人物についてですが、容疑者に仕立てるために描写・行動をやや露骨にしています。特に後半、最後まで容疑を引っ張るために意図的にそれっぽくしましたが、――でも書いていて楽しかったことは否めません。

最後にまったくの余談になりますが、この作品を書こうと思った直接のきっかけは実家で飼っていた犬の死でした。長年、家族の一員として暮らしてきた彼が亡くなり、「自分のことをどう見ていたのだろう」「どう思ってくれていたのだろう」と考えたのがそもそものはじまりです。あれから二年半が経ち、そのときの感情とはまったく違う方向の作品が目の前にあったりしますが、ようやくこのことを他人に話せるようになったのだなと、ふと過去を思い出しました。

2007/10/29 (月)