第15回 ( written by たま )

 ――銭湯・亀の湯。



「うむ、これは立派な銭湯で御座るな」

「わーい。お風呂屋さんだね☆」

「あ、ああ――」

 洗面器にシャンプー・石鹸・タオルといったお風呂セットを手にした三人は、夕焼けの空にもうもうと煙を上げる巨大煙突を見上げた。

「どうしてここが害蟲駆逐兵《デバッガー》出現のキーポイントなんだ?」

「どうしてだろうねー」

「愚拙が想像するに――」

 頭に手拭を載せた高梨老人は辺りを見回した。

「――この銭湯は言わば『四神相応《しじんそうおう》の地』ではないかと」

「シジンソウオウって何だ?」

「天空そして地上を四つの神獣が守護する――という古代中国の思想で、東に青竜、西に白虎、南に朱雀、北に玄武が位置すると言われておりまする」

「あ、ゲームで聞いた事がある。それって風水や陰陽道に関係する奴だろう?」

「左様。古来、呪術《オカルト》と遊戯《ゲーム》は切っても切れぬ関係ですから不思議ではありませぬな」

「へー」

 分かるような分からないような意見に、啓二はあいまいに頷いた。

「……で、亀の湯がその四神相応の地な訳?」

「大和民族が唐の宮都を手本に造りし平安の都が、この原理に基づいた都市であったのは有名でありますが――」


東:青竜(流水)

西:白虎(大道)

南:朱雀(池澤)

北:玄武(丘陵)


「こういう地には良き気が集まると言われておりまする」

「はあ」

「同じ観点でこの地を見ますると、ご覧の通り」

 そう言って高梨老人は懐から地図を取り出した。

「東に川、西にメインストリート、南に沼、北に山。その中央にあるのが、この銭湯。正に理想の吉相の地。――まあ、これは付け焼刃の知識故、大和の末裔である次元鍵殿には『釈迦に説法』でしたな」

 ぶん、ぶんっ、ぶうんっ。

 啓二は思いっ切り首を横に振った。

「とは言え――」

 高梨老人は腕組みをして唸った。

「この辺りが四神相応なのは確かでありますが、単なる偶然でしょうな。そもそも次元扉《ディメンジョンドア》を開放するには次元鍵《ディメンジョンキー》が必須。愚拙の思い過ごしでありましょう――」

「……そうだっ!」

 唐突にミアが声を上げた。

「何か分かったのか?」

「ううん、こことは関係ないかもしれないけど、気になる事があって」

「気になる事って何だ?」

「えっとね、啓ちゃんのフルネームって『橋本啓二』よね?」

「それがどうしたんだよ?」

「ボク、こっちの世界の命名ルールってあんまり詳しくないけど、長男だったら普通『啓二《けいじ》』じゃなくて『啓一《けいいち》』じゃない?」

「…………」

 啓二はミアの方を振り返ると、ごくりと唾を飲み込んだ。

「まさかとは思うが……今朝見た男……俺の双子の兄?」