僕達は愛車のカルディナに乗り、とりあえず、近所のTSUTAYAに向かった。
しかし、はっきり言って、時期が悪かった。
一月三日と言えば正月、正月と言えば、お年玉。
そう、この時期の子どもの集金能力をナメてはいけなかった。
今日びの子どものお年玉は、一人当たりウン万円というのもザラ。定価三万九千八百円のプレステ2本体にソフトとメモリーカードを付けてお釣りがくる――というのも、さほど珍しくない。ましてや、クリスマスの時期に、子煩悩な親達に根こそぎ買い占められた後の追い討ちである。品薄だからといって店側を責める事は出来ない。
仕方なく少し車を走らせ別の店に移動したが、そこでも矢張り同じ。ご丁寧に「次回の入荷時期が未定」という点まで同じであった。
「ふぇーん、このお店にもないのぉ?」
早紀は僕の腕にしがみ付きながら、情けない声で言った。
「……私の赤い彗星が遠退いていく……」
最初はバカバカしい思っていたが、こうなると彼女がちょっと可愛そうな気がしてきた。どこか売っていそうな場所はないか、なけなしの知識を振り絞って思いを巡らし始めたその矢先、あるアイデアを思いついた。
僕はその事を口にした。
「なあに? どっかアテがあるの?」
「灯台下暗し」
「…………?」
彼女はキョトンとした顔で首を傾げ、僕の顔を見上げた。
僕は人差し指を立てて言った。
「コンビニだ」
――実は自分でもグッドアイデアだと思ったのだが、結論から言えばこれも失敗であった。僕の思いつきなぞ、敵は百も承知なのだ。
ローマは一日にしてならず。大人の浅知恵が通用するほど子どもの世界は甘くないという事を、僕達は痛感した。
何度も繰り返しになるが、子どもをナメてはいけない。
「誠に申し訳ございません、当店では現在、予約待ちの状態でして」
「ごめん、年末にはまだあったんですけどね」
「ああ、残念だね。ついさっき売れたばかりだよ」
早紀はとうとう音を上げた。
「……あーん、もう嫌!」
「敵もなかなかやるじゃないか」
「もう嫌ぁ。今ので五軒目よぉ……」
「なあ、早紀」
僕は慰めるように彼女の肩を叩いた。
「今は丁度ピークなんだからさあ、あと一ヶ月くらい我慢しろよ。そうすれば、きっと余裕で買えるって」
「イヤイヤ。絶っ対、今日買うの!」
こうなったらテコでも動かない強情さ、それが彼女の性格であった。――まあ、そんなところがまた可愛いのだが。
さて、それならそうで、相手が子どもならばどうすべきか、対応策の再構築を行う必要がある。
子どもに出来なくて大人に出来る事?
豊富な財力を利用した買占め? 深夜の買出し?
――そうか。
「一ついい考えがあるんだが」
「……今度は何よぉ」
絡み付くような視線で僕を睨み、彼女は口を尖らせた。
二度ある事は三度ある――彼女の目が明らかな不信感を訴えていた。
「まさかとは思うけど、今からアキバやポンバシくんだりまで買い付けに行くって言うんじゃないでしょーね?」
「大須ならいいのか?」
「断固として不可よ」
「どうして? ここからなら三十分もかからないぞ?」
「こっちに来る途中で寄って、目ぼしいトコロは探したの」
「なるほど」
予想通り、押さえるべき箇所は既に押さえているらしい。
「で、いい考えって、なに?」
「急がば回れ」
「はあ? どういう意味?」
僕は愛車のハンドルを掌でぽんぽんと叩いた。
「こいつでお子様が行けないような場所に行けばいいんだ」