「うわっ!」
啓二は眩しさのあまりとっさに手で目を覆った。
「怪しい連中が何かしているとの通報で来てみれば……何をしているっ!?」
逆光、と言うより光源の向こうなので良く見えないが、指の隙間から覗いてみると、どうやら紺色の制服の、おまわりさんらしい人影が、こちらを睨み付けている様子である。と言っても、やはり顔はよく分からないのだが……
「うんとね、ボク達のムラの跡を掘ってるんだけど。」
「左様。元来ここは烏奴國《うなこく》の果て、我らが……」
「…無駄だと思うけどなぁ…」
説明を始める二人のそばで小さく溜息をつく啓二。
「なる程。で、諸君らは先祖の残した物を探していると言うのだね?」
「左様でござる。分かってくれ申したか。」
「そ、そんな馬鹿な…」
目を輝かせるモモちゃんと、信じられない啓二。しかし、おまわりさんは、冷たく言い放った。
「分からん!駄目に決まっとる。百歩譲ってそうだとしても、文化財はたとえ所有者でも勝手に壊しちゃいけないのっ!」
「そんなぁ…カタイ事言わないでさぁ。」
「ダメなものはダメ。」
「くうっ!こうなっては、次元鍵様これを開けて下され、早くっ!」
「えっ?」
「おじさんのわからずやぁっ!えぇいっ!!」
ミアがどこから取り出したか、目潰しの煙幕を炸裂させた隙に、高梨老人が啓二の手を取り、そのフタを開けさせた。中は、真っ暗な空洞、何処へ、何処まで続くのか見当もつかない。
「うわっ。ゴホゴホッ……」
咽込むおまわりさん。
「今のうちですぞ、早く中へ。愚拙も後から参りまする。」
「じゃあ、啓ちゃん、行こっか。」
ミアが啓二の手を引いて先に穴の中へ踊り込む。高梨老が後押しし、啓二はそのまま続いて穴に飲み込まれた!!
「う、わああぁぁ〜」
「待ちなさい。こら。公務執行妨害で逮捕するっ!」
煙幕を振り払うおまわりさんを尻目に、最後に残った高梨老も後を追った。
「聞きなされ。この先邪馬台国ゆえ、貴殿らの法は通用せぬ、依って吾等は無罪なり。ではさらば。」
「こらっ、君達は一体何者だっ。何が邪馬台国だ。待ちたまえっ……」
「わあぁあぁぁあぁぁぁ〜」
真っ暗な空間をひたすら落ちていく、否、落ちているのか上っているのかは分からない。寒い。啓二はそう感じたが、それは夏の暑さがなくなったからで、寒いか暑いかの感覚も本当はない。空気すらないのではないかと思えたが、呼吸は出来ている、ようだ。どこからか、ミアの声も聞こえてきた、
「啓ちゃーん、邪馬台国に行きたいなって、考えてみてー。」
……考えろって言っても、どんなところなんだ?
高床式倉庫、貫頭衣に、ミアのつけてるような奇妙な装飾品(似合わねー)……
その瞬間、急に、目の前が真っ白になる!強烈な光に包まれたのだ!!
「出るよー。対衝撃防御ねっ!」
「待ちたまえと言っておるのに……せっかちな人達ですねぇ。」
おまわりさん、は、急に口調を変えた。
「おやおや、入り口が開けっ放しではないですか、いけませんねぇ、いくら慌てたとはいえ、開けたら閉める、これがジョーシキです。」
太眉警官のお面の下から出てきたのは、先程の“寡黙な”タクシーの運ちゃん。一転、饒舌になり、誰も聞いていないのに一人で嬉しそうに喋りつづける、
「……ふふふ、通報なんてしてませんよ。あとで何かと面倒ですからねぇ。それにしても、真夜中にこう言うのを売ってる国は、平和ですねぇー。」
そう言って、イカメシイ顔のお面と、上着を見る。上半身を窮屈そうに覆うのは、よく見ると婦人警官の制服だった。