邪馬台にまつろわざるクニの筆頭、狗奴国《くなこく》。その代々の王はやはり超常の力を持ち、邪馬台とは対照的に男王の血筋は、亜空間よりもむしろ現空間を操ることに長けていた。クニの中心をなすムラの一つを常に浮遊させ、そこから民を支配したとか、邪馬台との抗争に敗れ南の海の果てに追いやられた時の王弟は、島をまるごと動かして秋津島にぶつけ、戻ってきたと言う。いわゆる『魏志倭人伝』に邪馬台国の北方の国々を記述している筈の所で、突如『南』の狗奴国が出てくるのはそういうわけである。ちなみに、狗奴国のまたの名をイズモ、新しい陸地にしてしまった地をイズと言う。登呂遺跡が前線基地と言うのも、この第2の狗奴国イズ勢力に対してのことである。
実は、邪馬台と狗奴国とは和解をした時期がある。このとき『神有国』という名誉ある称号を与え、その代わり狗奴国王の称号を廃した。そうすると新しい称号が必要になってくるものだ。浮遊するムラ『神有国原』にあって狗奴国を治める者は―――
「害蟲駆逐兵《デバッガー》の落下点にゲートを開くよ。啓ちゃん!」
「お、おうっ!」
走りながら言うミアに、何とか答える啓二。どうやって開くかはイマイチよく分からないのだが、今までの経験から何とかなるだろう。
「モモちゃんは、搬送道《パス》を操っている奴を見つけてっ! たぶん、上。」
「お任せあれ。」
高梨老人はビルに向かおうとして、思いついたように振り向いた。
「しかし、姫様。このようの真似の出来る者なぞ、そうは居りますまい。」
「だろうね。」
ミアはちょっと足を緩める。
「もしや……」
眉をひそめる高梨老人。ミアは足を止めた。
「だろうね。」
「ちょ、ちょっと待ってくれよ、心当たりでもあるわけ?」
たまらず聞く啓二。
「左様、能力《ちから》を持ちながら亜空間にも渡らず、地底にも潜らず、何故にか秋津島の支配にものり出さず、渡来人たちと同化した勢力。その頭目の子孫が現空間に居てもおかしくはありますまい。」
「……ちなみに、今度はなんて言う奴なんだよ?」
一応聞く啓二。2人から同時に答えが返ってきた、
「神有国原宮司《かみありのくにがはらのみやのつかさ》!」