憶想(2002/05/07)

 言葉って儚いね――。


 彼女の台詞が耳の奥底に残っている。


 でも儚いからこそ言葉じゃないのかな。

 僕がそう答えると彼女は、何だか悲しいね、と寂し気に笑って見せた。



 ――悲しい?



 言葉。


 心の射影。感情の二次的産物。記号。

 表現した直後から、風化を運命付けられる、遺物。


 そして、最も普遍的なコミュニケーションツール。


 社会的生活を送る為のパスポート。

 他者との接触手段。心情の接点。


 一つ一つの言葉が、五感に訴え掛ける。

 新たな感情を産め増やせ、新たな言葉を産め増やせ、と。


 言葉が言葉を産む――そうか、生命の営みと同じなんだ。



 今ならきっと、あの時の問いに答えられる気がする。