第10回 ( written by Rant さん )

真っ白い光をくぐり抜け、啓二達は別の空間に踊り出た。

「うわああぁぁ〜」

亜空間へ入るときの勢いそのままに投げ出され、地面を転がる啓二。

ミアは受身を取って衝撃を吸収し、颯爽と立ちあがる。が、その直後に出てきた高梨老人がやはり投げ出され、ようやく止まりかけた啓二に衝突する!

「ぐわっ!」

「おっ、これはこれは次元鍵殿。御免。しかし老骨のクッションになって戴けるとは有難い。」

「そんなつもりじゃないんで、早くどいて欲しいんだけど…」

「ははっ、直ちに。…よっこらせと。」

「…痛いなぁ、もう。」

なんとか騒ぎも収まり、立ちあがった啓二。ミアが笑っている。

「ははは、だから気をつけてねっ、って言ったのに。モモちゃんも、しっかりっ。」

「これは、一生の不覚っ。しかし愚拙はそもそも自力にて亜空間を超えれない以上、こういった……」

「しぃーっ。そんな場合じゃないでしょ」

長くなりそうな話を遮り、真面目な顔になって今出て来た亜空間出口を睨むミア。

「そ、そうで御座った。」

高梨老人もあわてて立ち上がり、近くにあった電柱(?)の幹に開いた穴に向かって叫び出した、

「緊急配備を要請。こちら高梨、コードネームMOMO。深亜《みあ》姫様および次元鍵殿とポイント『ひまわり』に到着。敵対勢力の強襲が予見されておる、緊急配備を要請。直ちに駆けつけなされい!」

「えっ!?」

と啓二が驚いた次の瞬間、亜空間出口が蠢き、ローギリュオンを先頭に黒装束の男達が押し寄せてきた――、


「止まれっ!」


既に準備を終えていたミアの呪《しゅ》が炸裂し、ローギリュオンはそのまま、亜空間の出口で固まった!狭い出口に押し寄せてきた精鋭部隊はその背中に衝突し、激突し、芋を洗うような大騒ぎになる。

「うおっ、痛い!こら、お前達、ぶつかるな。くっ、なんとかしろ〜〜っ」

そして、到着した邪馬台国の部隊に全員あっけなく亜空間の彼方へと追い返された。



……


地底帝国第三都。

「口惜しや。またしても…、またしても予見《ディビネーション》の力か。」

『深淵の間』に皇帝ルセイデスのくぐもった声が響く。

「申し訳ありません。私としたことが二度までも彼奴めの呪《しゅ》にかかるとは…」

「…そのような事ではない、ローギリュオンよ。そなたの生まれる遥か以前から、我等は邪馬台を渇望しておる。然るに、その度毎に―――よいか、忘れるで無いぞ、その度毎にだ―――我等の動きは予見されてしまうのだ。森羅万象を見透かす奴等めのその力こそが、我等の最大の障壁であり、また、次元通路《ディメンジョン・ルート》と並ぶ目的でもあるのだ。」

「…分かりました。それでは今度こそ彼奴等に目にもの見せてくれましょう!なに、予見されても防ぎようの無い作戦を立てれば良いだけのこと。このローギリュオン、今度こそ邪馬台を陥として見せましょうぞ。」

「…よかろう。楽しみにしているとしよう。儂は少し休む、下がるがよい。」

静かなその声には確かに疲労が滲んでいたかもしれない。

「ははっ!」

足音を残し、黒い敗残の将は去る、目に復讐の炎を宿し。スピーカーの向こうで、老皇帝は呟いた、

「…青いのう、若さか。だがそれではまだまだ奴等には勝てぬ。永遠に勝てぬかもしれん……儂は一体何をやって来たのだ?いつまで続ければ気が済むのだ?…」



「う〜ん。」

夏休み最終日、ようやっと自宅に戻った啓二は密度を上昇させた宿題と格闘していた。とてもゲームどころではない。

邪馬台国は想像よりとっても現代的、いや未来的でさえあった。もともと亜空間を発見したような文明人の正当な後継であるからには不思議は無いのだが。啓二は歓待され、ミアはじめ邪馬台国友好使節団(?)とともに現代に戻ってきたところである。使節団と言うより視察団は、世間を刺激せずにこっそり文化の交流を図る(それってアングラって言わないか?)らしいのだが、ともかく帰りにまた合流することになっている。それまでは啓二はフリー。ガードも一切付かない。『神様が安全って言ってる。』のがその理由だそうだ。


しかしこの時点で、邪馬台国には小さなセキュリティーホールが存在した。ルセイデスが二千年の永き熱望の果てに諦観に至った『予見』にも、盲点があったのだ。確かにこちらに来ている啓二やミア、モモちゃんは安全だろう。しかし、留守にした邪馬台国は?

実はあの乱戦の最中、亜空間出口から邪馬台国にまんまと転がり出ることに成功した一人の男がいた。

“タクシーの運ちゃん”その人の出番である。