コンピュータのある風景

 学校から帰るなり、靴を脱ぎ捨て、台所にあった菓子パンを口にくわえ、自分の部屋へと急いだ。ドアを開け、鞄をベッドの上に投げ捨てる。そして、約一分で着替えを済まし、窓際のパソコンの前に座った。

 電源をオン。軽いファンの音と共に、二日前に買ったゲーム『信長の野暮X〜世界の覇者〜』がハードディスクから立ち上がった。――これは、「世界中の強者達の中で、誰が最も早く世界を統一できるか?」という歴史シミュレーションゲームである。織田信長、武田信玄などの日本の戦国大名をはじめ、安倍貞任、児玉源太郎、フビライ=ハン、スタ−リン、アレクサンドロス等々、歴史上の有名人が続々と登場する。――多少、年代にズレがあるようだが、気にしない、気にしない。その中から一人を選び、国主となって、自分の領地を開墾しながら兵を育てる。そして、有能な部下の発掘をしつつ、戦争によって領土を広げる。――これが結構、面白い。

 もちろん僕は、信長でスタート。

 次々に城を攻め落とし、わずか三年で日本を統一。狭い日本だけでは物足りない僕は、次の年には朝鮮を、はたまた次の年には中国を統一。――と、ここまでが昨日までの僕の成績だ。

「昨日は、確か人口が八〇億人を越えたんだよなあ……。今日こそ、世界を制覇してやるゾ!」

 とかなんとか言いつつ、マウス片手に画面をにらんだ。

 隣国を攻め、工場をどんどん作る。環境基準、苦情なんか、無視、無視。はっきり言って、もう気分は独裁者である。

「アメリカなんか、こうしてやるーー。経済封鎖だ。へっへっへ……」

 二日後、僕は仇敵イラクのフセインを打ち破り、見事世界を制覇した。もちろん、お得意の武器で、だ。所要時間約三十時間。――長い道のりであった。

 たくさんの人間が、僕の無謀な侵略によって死んでしまったが、そこは僕のアフターサービス。しっかり、人口を六〇〇億人にしてやった。それにもかかわらず、恩を忘れた馬鹿者達が、目安箱に様々な苦情を言ってくる。――少々、大気の組成パーセント等が変わったようだが、きっと気のせいだろう。

 と、そこに友人の坂田が遊びにやって来た。彼とは、小学校以来の遊び友達だ。

「なんだ、お前、ゲームをやっていたんか。ちょっとやらせろ」

 いきなり僕の手からマウスを横取りすると、『災害発生モード』にして、「核兵器」を日本の真ん中に落とそうとした。

「こ、こら、まだセーブしてないんだぞ……」

 僕の声を無視して、坂田はマウスの左ボタンをクリックした。

 画面が虹色にフラッシュ。

 その瞬間、窓の外の景色も、同じように明るく輝いたように見えた――。

「なかなかきれいな花火だったな、大佐」

「ははは。これからの我々を祝しているのですよ、閣下」